忙中閑あり 長谷川如是閑を読む

而して英国の十九世紀の自由主義者等の華々しい理論は、要するに、右のやうな事実に着せた思想の衣服なのであつた。人間社会のおのづからなる発達を歪め、または妨げるものは、人間自身のそれに加へる制約である、といふ十九世紀の英国の自由主義者の思想は、右の関税改革のやうな、その地代の極めて平凡な、然し確かな事実の上に成り立つものであつた。従つてその思索は、常識の水準をさう高く離れたものではないが、それだけ観念のからくりから生れた一つの高遠の思想が他のからくりから産れた同じく高遠の他の思想によって、かはるヾ取つて代はられるといふやうな、哲学史的の興亡の過程からは超越したもので、現実の歴史の動きの外に、その思想を揺り動かすことの出来るものはないのであつた。それが十九世紀の英国の自由主義思想であつた