西日本新聞

施行前の法律で逮捕 地検、簡裁も素通り 佐賀県警「公布」有効と勘違い 他人名義口座売買の2人
 佐賀県警は19日、施行前の犯罪収益移転防止法を誤って適用し、長崎県佐世保市の無職男性(47)と広島市東区の会社役員女性(32)の2人を逮捕するミスがあったと発表した。事前に県警と協議した佐賀地検と、逮捕状を発付した伊万里簡裁も間違いに気付かなかったという。同県警は2人をいったん釈放した。20日に同種の金融機関本人確認法違反容疑で再び逮捕する方針。

 同県警によると、オークションへの参加手数料などの支払いを免れる目的で、ネット銀行の他人名義の口座番号などを売り買いした疑いがあるとして、犯罪収益移転防止法違反容疑の逮捕状を取り、19日午前11時ごろに2人を逮捕した。

 しかし、同法は昨年3月31日に公布されたが、全面施行は今年3月1日だったことに、報道機関からの問い合わせをきっかけに19日午後7時ごろ気付いたという。

 県警は「一部は昨年4月に施行されていたこともあり、公布と施行との時期を取り違えて、誤って逮捕状を請求した」と釈明。2人は同じ容疑事実により、以前からある金融機関本人確認法違反容疑で逮捕される。

 テロ組織などによる資金洗浄の阻止を視野に入れた犯罪収益移転防止法は、不正取引の対象を金融機関に限定した金融機関本人確認法とは違い、保険会社などにも適用範囲を広げた。

 県警生活環境課の宮崎保男生活環境指導官は「法適用のミス。二度と起こらないよう指導を徹底したい」としている。

 伊万里簡裁を管轄する佐賀地裁・家裁の報道担当責任者の川崎道治・同家裁総務課長は、19日夜「現在、事実関係を調査中で詳細についてはコメントできない」と話した。

■「確認しなかった」

 佐賀県警が19日、完全施行前の犯罪収益移転防止法を誤って適用し、いったん逮捕した男女2人を釈放した問題。2人を逮捕した県警生活環境課は同日夜、報道機関からの問い合わせが相次ぎ、同課の宮崎保男生活環境指導官は「適用法をよく確認しなかった。申し訳ない」と謝罪した。

 同課によると、同法が施行前だったことに気付いたのは同日午後7時ごろ。逮捕広報を受けた報道機関から適用例の問い合わせがあり、確認作業の中で分かったという。

 刑事手続きにおいて、法令適用の確認は基本中の基本。それだけに、宮崎指導官は「一切弁解はできない。今後このようなことがないよう指導を徹底する」と答えるのがやっと。逮捕状を発付した裁判所に対しては「責任はない」と最後までかばった。ただ、「犯罪行為に変わりはない」と釈明する1幕もあった。

■裁判官も甘すぎる 板倉宏・日本大法科大学院教授(刑法)の話

 法律が施行されていないことを把握していなかった佐賀県警も問題だが、県警から逮捕状を請求され、そのまま出してしまった裁判官は何をしているのか。手続きを事務的に処理して、きちんとチェックしなかったとしか考えられず、信じられない。こんな話は過去にないと思う。

■法律の周知追いつかず 内田博文・九州大法学研究院教授(刑事法)の話

 極めて珍しいケース。ここ数年、刑事法に関する立法や法改正が相次いでおり、法律の内容を含めた周知徹底が警察、検察、裁判所の現場にまで行き届いていないのではないか。裁判官らが知らないのだから、処罰対象になる国民はもっと知らないはずだ。国民への周知のあり方も考えなければならない。

=2008/02/20付 西日本新聞朝刊=
2008年02月20日01時32分